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スカイマーク、「経営の甘さ」の象徴は”為替ヘッジ” 一方そのころ全日空は…

エアバス解約問題で大揺れのスカイマーク、本日の四半期開示でついにGC注記が付いてしまいました。

 

 新興航空会社のスカイマークは29日、欧州旅客機大手エアバスから導入予定の大型旅客機「A380」について、購入契約の解除を通告されたと発表した。

(中略)

 スカイマークの西久保慎一社長が29日に記者会見し、エアバスから27日にファクスで契約解除の通告があったことを明らかにした。契約解除に至った理由として、資金調達の能力が疑問視されたと分析し、「円安による(円換算の機体価格の上昇などの)コスト高を読み切れなかった経営の甘さがあった」と述べた。
経営の甘さ…スカイマークにA380解約通告 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 

本件については、「スカイマークの違約金問題 ~ 業績推移とエアバス機発注に係る為替のワナ等|Accounting, Tax and M&A」にて端的かつ詳しく述べてあります。
ここでも少しスカイマーク側のこのエアバス投資にかかる開示資料を見てみましょう。

 

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平成23年3月期 決算短信〔日本基準〕(非連結):スカイマーク株式会社

 

このように、エアバスA380関連の投資はこの年度の営業キャッシュフロー(H23/3期・営業CF14,914百万円)の3倍もの額が将来、単年度(H27/3期・A380関連支出予定額45,745百万円)で出て行くと予想されるほど莫大なものでした。*1

ただし、「国際路線への事業展開のための航空機材導入について」で明らかなように、この当初のエアバスA380関連の投資計画では「$1=83円」を仮定して支出額の推計を行っていたのでした。


そして、同年度の短信にある「事業等のリスク」注記では下記の記述が。

⑤ 為替変動の影響について
  当社の主な費用のうち、航空機リース及び航空機整備の一部等については外貨建取引を行っております。また、航空機リースに係る契約保証金等の外貨建債権を保有しており、一方、今後においてはAirbus A380型機購入等に係る支払債務の増加が見込まれます。当社は、現時点においては為替予約等によるヘッジを行っていないため、外国為替の大幅な変動が生じた場合には、費用の増減、若しくは外貨建債権の評価損益の発生等により、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります


なんということでしょう。
この注記はそれ以後、現在に至るまで同じ趣旨の文言で一貫しているのです。

ちなみに一方、有価証券報告書の方では一貫して下記のような記述がされています。

Airbus A380型機購入を予定していることから、外貨建取引の更なる増加が見込まれている為、それに伴い為替変動の影響が増加する事が見込まれます。
現時点では為替予約は行っておりませんが、今後の為替動向と外貨建取引状況によっては、然るべき対策を検討します

そして「検討」しながらも放置が続いた結果…

この業績悪化に追い打ちを掛けてA380発注の状況を悪化させているのが為替です。

A380の総投資額1559億円というのは、当時の米ドル為替レート83円が前提ですが、スカイマークは為替予約を行っていませんでした。

その結果、アベノミクスによる円安の影響を受け、総投資予定額は2013/3末には1795億円(レート97円)、2014/3末には1916億円(レート102円)に膨らんでしまいました。

総投資予定額が357億円も増えたわけです。

スカイマークの違約金問題 ~ 業績推移とエアバス機発注に係る為替のワナ等|Accounting, Tax and M&A

 

為替動向を見ながら対策を検討し、為替変動による影響のヘッジを行ってこなかった結果がこれというわけなので、経営に重大な影響を及ぼしうる事象へのリスク管理としてはまさに「経営の甘さ」と指摘されて然るべきということになってしまいます。


さて、そこで全日空の為替リスクへの対応状況を見てみましょう。

ANAグループの費用項目で大きなウエイトを占める航空機燃料の購入を外貨建てで行っていることなどから、円安になった場合には収支に与える影響は少なくありません。一方で、国際線収入増加に伴い、円高になった場合の収入への影響も拡大しています。これらのことから、同種通貨間においては収入で得た外貨を可能な限り外貨建て支出に充当し、為替相場の変動によるリスクの抑制に努めているほか、航空機燃料および航空機材の調達に必要な外貨の一部については、為替相場変動による影響を緩和し支払額の平準化ならびに抑制を図るべく、先物為替予約および通貨オプション取引を活用し、為替変動がANAグループの営業損益に与えるリスクの軽減を図っています。

http://www.anahd.co.jp/investors/data/annual/pdf/13/13_28.pdf


これについては日経の記事も解説を行っています。

 ANAホールディングスは外貨建ての費用に対する為替予約の基準を変える。従来は一部燃油購入に使う外貨の6割が対象だったが、外貨建て収入から費用を差し引いた金額に変更する。燃油費をはじめ外貨建て費用は従来も多かったが、最近は海外での航空券販売など外貨建て収入も増えている。収入と費用の差額を対象とし、きめ細かく為替リスクを管理する。

 国際線は世界33都市に就航し、ドルやユーロなどの航空券の販売増で外貨収入が伸びている。一方、費用面では国際線と一部の国内線の燃油に加え、海外空港での着陸料や整備委託費などを外貨で支払っている。新手法を2014年3月期中に導入し、外貨建ての収入と費用の差額の9割を為替予約する

ANAHD、為替予約基準を変更 収支に応じきめ細かく :日本経済新聞

 

こういう文章を見慣れない人にはちょっと分かりにくいかもしれないのでカンタンに図示してみますね。

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つまり、たとえば$10,000の燃油の支払いに、国際線の運行で入ってきた$10,000を充ててしまえば、そこには基本的に為替リスクは発生しません。
為替リスクが発生するのは、単純に述べてしまえば、上のようにマッチングできなかった残りの部分です。

ANAHDはこの「差額」の9割程度に為替予約を付して為替リスクを管理しているということのようです。

いろいろプロの意見はあると思いますが、確かに「きめ細やか」さが目立ちます。

(ただし、スカイマークの場合は海外での収入がANAのようにあるわけでもありませんので、同様の為替リスク管理は行いにくくなっていました。)

 


もちろん、「為替リスクをヘッジしない」というのも経営判断としてあり得ます。
ただ、今回スカイマークの例で垣間見れるように、それは「膨大な円買いポジションを取った」ことと同様となります。

少し古い本ではありますが、木村剛「リスクヘッジ経営―財務危機を回避する10の知恵*2では「マーケット・リスクがありながら、その状態を放置すること、それは投機である。*3」と記しています。

ましてや、最近は「アベノミクス」政策下ですから、その「放置」を経営の甘さと言われてしまうのは仕方がなさそうです。

 

つい数年前に円高で苦しんだり、いま円安の打撃を受けておられる中小企業さんも、このボラティリティが小さい現在だからこそ、本件を受けてもう1度「為替リスク」について考えてみるのも大事なことかもしれません。

*1:もちろん、同時に資金調達計画は入念に立てられていたものと思われます。この場合は、教科書的にいえば外貨建の資金調達も有効ですよというような検討や提案もあるのでしょうね。

*2:「あの」木村剛ですし、内容も古くなっていますが、経営者は読んでいて良い本かもだと思います。

*3:ただ、一時期「為替デリバティブ」問題が中小企業を揺るがしたように、リスク相殺をそもそも目的としていないような為替予約もまた、投機である。(とはいえ自覚と責任のもとに、「投機する」という経営判断ももちろんあり得るかもしれない。)