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やっぱり今のうちに読んでおきたい金融庁『「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集』

金融 経営・会計 中小企業

上は今年6月のツイートだが、やっぱりこれをまだご覧になっていない方はサッとでもこのPDFに目を通しておくと良いのではないか、というような日経新聞の記事が続いている。

 

経営者保証に関するガイドライン」とは、会社の金融機関からの借入に際して行う(または、過去に行った)経営者の個人保証について、金融機関と法人、経営者やその親族らとの間で一定の条件を定めることにより、経営者保証がもたらす弊害*1を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援するために定められた中小企業・経営者・金融機関による相互の対応についての自主的自律的な準則です。

 

何言ってるか全くわかりませんね。

ざっくり言うと、法人が金融機関から借入を行う際には経営者が保証人として保証することが一般的に見られますが、「これ結構エグくないですか?身ぐるみ剥がされるや思うてたらにっちもさっちもいきまへんがな」という声が強くなってきておりましたので、じゃあお互い話し合って一定のガイドラインを作って、それに基づいて少しずつこの経営者保証を外していったりというのをしやすくしましょうかね、との動きから生まれたものです。

しかしながら、

と@jo_taka先生もおっしゃいますように、当たり前のことですが、中小企業におきましては「所有と経営の分離」などという言葉すら知らない、知っててもウチは知るか状態の企業が非常に多く見られますので、金融機関側もそりゃそうカンタンに外せと言っても外せるわけがありません。

経営者やその親族らが会社の財産を容易に持ち逃げできる環境下で、会社から貸金を回収できなくなったら困りますものね。

こういう経営者保証の弊害を議論する際に時折見られるような、金融機関を敵視する方々は、自身が詳しく知らない法人におカネを貸す際のことをもう少しイメージいただければと思ったりもするのですが、それは余談なので先に進みますと、

 経営者保証のガイドラインは2月に適用されたが、保証解除の広がりはまだ限定的だ。東京中小企業家同友会の5月時点の調査では、保証を外せたのは回答企業301社のうち4%の12社。九州・沖縄ブロックの各同友会の合同調査でも762社のうち1.3%の10社にとどまった。

「保証外せた」4% 東京中小同友会調べ :日本経済新聞

というように、ガイドライン適用から3ヶ月後に行われた東京中小企業家同友会の調査を受けた日経新聞の記事では、保証を外せた企業は全体の「4%にとどまった」という記述が見られます。

もちろん、他の地域では上にもありますようにもっと低い割合となるわけですが、それ相応に業績がいいとか、自己資本が厚いとか、きちんと法人所有の財産を経営者が勝手に自分のフトコロに入れられないように(第三者目線で)なっているかとか、そういうプラスのポイントがないと「じゃあ外しましょう」とかはなかなかならないんであります。

そう考えると、適用開始から3ヶ月、ガイドラインのこともそれほど認知度が高いわけではないという状況下では、まあこの数字というのもうなづけるかなあといった感じもします。

 

さて、先ほどのツイートで先生もおっしゃっておりました通り、この「経営者保証のガイドライン」、いきなりの「外せ」要求ではなく、現在のところは金融機関との「交渉のカード」として使うのが最善の策となっております。

ここからは少しその具体的な事例を見て行こうと思います。

 「次女に会社を継がせる前に、経営者保証を外したい」。住宅リフォームなどを手掛ける笠原商店(東京・練馬)の笠原康博社長は今年3月、本社ビル 建設時の借り入れ残金1億5000万円の保証を外そうと金融機関と交渉を始めた。自分が20年以上前、多額の債務保証とともに会社を継ぎ、同じ負担を背負わせたくなかったからだ。

 だがメーンバンクの信用金庫には断られた。理由を聞いても「本店が認めないので外せない」の一点張り。別の信金との交渉に切り替えた。

  笠原社長は自宅として使う本社ビルの家賃を払っており、役員賞与と株式配当も受け取っていない。経営者と会社の資産分離を求めるガイドラインの条件を十分満たしていると強調した。本社ビルなどを担保としたこともあり、6月にこの信金から保証なしでの借り入れに成功した。信金幹部からは後日、「長く事業を続け経営が安定しているのも決め手になった」と説明された。

「経営者保証」解除、徐々に 事業継承などメリット :日本経済新聞

 

このように、新規借入でも金融機関ごとの交渉において、ガイドラインが示すような「経営者と会社の資産分離」といった条件を強調することで、より保証額の少ない借入条件を引き出すことが可能となった事例が見られます。

もちろん、冒頭で「会社の金融機関からの借入に際して行う(または、過去に行った)経営者の個人保証」とわざわざカッコ書きしましたように、このガイドラインは既存の借入の条件変更に対しても有効なんです。

 

さて、そのような一定の成功事例をまとめたものが冒頭およびタイトルに掲げました『「経営者保証に関するガイドライン」の活用に係る参考事例集の公表について:金融庁』です。

その中から一部の事例を取り出してみましょう。

Ⅰ.経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例

事例5.保全不足ではあるが、経営者保証を求めなかった事例 (地域銀行)

1.主債務者及び保証人の状況、事案の背景等
・当社は、放送・インターネット関連事業を営んでいる地元の優良企業であり、山間部への放送・通信等設備の整備を進め、加入世帯数も増加基調を維持しているなど、業況は安定的に推移している。
・今般、当社からの通信設備等に関する新規融資の申込みに当たり、当行から「経営者保証に関するガイドライン」について説明し、当社の意向を確認したところ、将来的に株式公開等も見据えているため、無保証の融資を検討してほしいとの申し出があった。

2.経営者保証に依存しない融資の具体的内容
・当社の意向を受け、当行において検討したところ、経営者等から十分な物的担保の提供がないなど、大幅な保全不足ではあるが、以下のような点を考慮し、本件融資については経営者保証を求めずに対応することとしたまた、既存の融資に関する保証契約についても、今後、解除することとした


1.本社等の資産の一部は経営者名義であるが、当社より適正な賃料が支払われているなど、法人と経営者の資産は明確に区分されていること
2.キャッシュフローが潤沢で利益償還が十分可能なこと
3.年度決算時や中間決算時等に定期的な経営状況の報告があるほか、当行の求めに応じて、営業の状況が把握できる各種資料の提出を行うなど情報開示には協力的であり、従来から良好なリレーションシップが構築されていること


・当社の意向に基づき、経営者保証を求めない新規融資及び既存の保証契約の解除について、迅速に対応したことから、今後一層の取引の深耕が期待される。

 

こちらの事例では、企業の金融機関に対する情報開示姿勢や、その潤沢なキャッシュフローをもとに、経営者の個人保証ナシでの新規借入が実現しています。

また、それと同時に既存の借入についても個人保証を外していくことで合意しています。

これはガイドライン*2の成果であるといえるでしょう。

Ⅰ.経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例

事例10.経営者保証の機能の代替として解除条件付保証契約を活用した事例 (主要行)

1.主債務者及び保証人の状況、事案の背景等
・当社は、システム開発会社であり、大手他社に先駆けてクラウド環境でのインターネットサイト構築に参入し、大手企業を中心に取引先が増加している。
・今般、取引先の増加に伴う運転資金に係る新規融資の申し出があったため、当行から「経営者保証に関するガイドライン」の内容を説明するとともに、当社を巡る状況を勘案し、解除条件付保証契約での融資を提案した。

2.経営者保証に依存しない融資の具体的内容
法人と経営者との関係の区分・分離は不十分であったが、以下のような点を勘案し、上場申請を解除条件とする解除条件付保証契約(注)の活用を提案したところ、当社の了解が得られたため、当行の提案どおり、解除条件付保証契約での新規融資を行うこととなった。

①業歴が浅く、直近決算は赤字であるものの、一定の販路を構築済みであり、足元の試算表では黒字に転換しており、今期決算は黒字が見込まれること
②試算表等の定期的な提出があり、情報開示の姿勢が良好であること
③上場を志向しており、主幹事先である当行関連証券会社と具体的な協議を進めていること

(注)解除条件付保証契約とは、特約条項(本事例では、上場申請)を充足する場合は保証債務が効力を失う契約。

 

2番目の例は取り上げられている企業が「上場申請が眼中にある」という点から、一般的な事例とはいえないわけですが、ここで「解除条件付保証契約」というように、「一定の条件を満たしたら個人保証が解除になる」というような条項を盛り込んでいる点が従来に見られなかった動きとして特徴的です。

 

また、本件「解除条件付保証契約」とは方向が逆の事例として、別で定める特約条項に抵触しない限りは保証契約が発生しない(個人保証がない)「停止条件付(連帯)保証契約」が取り交わされた例も同事例集では取り上げられています。
別の言い方をすれば、「別に定めた条件に該当するまでは経営者保証は付しませんよ、ただし約束破ったらちゃんと保証してもらいますからね」というものです。

 

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(画像は金融庁PDFより。クリックで拡大。)

 

これらの他にも、この事例集では、全額とまではいかないまでも、担保の状況やその他経営・情報開示姿勢等を勘案して、経営者・親族らによる保証金額を減額する例なども取り上げられています。

 

当ガイドラインは現在のところ「交渉」において特に有効ですが、日経新聞の取材でも見られましたように、経営者側がこの話を切り出した時の金融機関側の対応を見ることにより得られるものも少なくありません。

経営者側がこの事例集をご一読いただくのはもちろんのこと、金融機関側の、特に若手の渉外の方も一定程度、頭に入れておくことは不可欠といえるでしょう。

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*1:たとえば、会社が事業に失敗することで、経営者自身の生活や、失敗から立ち直ることが困難になったり、その懸念から思い切った経営改革や事業の立て直しを行えなくするようなもの

*2:それへの取り組みに熱心な姿を金融庁にアピールしたいという金融機関の姿勢を作った、という意味も含む。