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こうしてボクらも、「老害」になっていく

言いたいことはタイトルに書いたので、読むのが面倒くさかったら下の方の図だけでも見ていって下さい。

 

いまさらですが、年金制度ひどいですよね。

上の世代が納めてきた年金保険料では彼らの世代の年金が賄えないという状況が続きながらも、支払う年金の額を下げるのではなく、おそらく今後も広く薄くの増税と社会保険料の値上げで対応*1。その上、厚労省は国民年金保険料の徴収強化に動く。

 

 

しかし直近*2でもっと意味不明だったのは、そのようにおカネを集めざるを得ない状況であることを理解していながら、同時に年金運用においてさらにリスクを取りに行こうとする「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」・伊藤座長らの提言です。

 

彼らは金利上昇に弱い現在の資産構成が「危険だ」と明言しますが、当然にその他の要因が不変で金利のみが上昇するなんてことはないわけですから、その論点における問題はリスク性資産の選別ではない*3ことくらいは彼らも確認済みだったはずです。つまり、GPIFはすでにその一部が(株価を上げたい)政府のサイフと化しているということに他なりません。

 

確かに、近年の株高でかなりの運用益が出ているようですが、年金運用とは所与の支払水準を満たすために運用利回りを高めていくゲームではないことは、生命保険会社に聞くまでもなく明らかなことです。
もちろん、運用利回りが高まるのであれば、年金財政上の運営もそれだけやりやすくはなりますが、制度設計および政策論となれば、手段と目的は別のものであるべきと考えます。

 

さて、このような年金政策は、数多ある政策論争のごくごく一部に過ぎないわけですが、例えばこの課題だけをもって増税が正当化されるなど、世代間の政争のありさまを眺めるにはそれが格好の題材であることは、言うまでもないと思います。

 

というわけで、ここからは世代間対立について触れていくのですが、かつて出口治明(ライフネット生命保険CEO)のエントリ「わずか4枚で年金問題の本質を見事喝破ニコラス・バー教授の最強パワーポイント資料」で以下のようなパワポが取り上げられていました。

年金の支払いに問題がある場合、ただ4つだけの解決策がある。これらのアプローチが含まれていない年金財政改善方策は、いずれも幻想である。

・もし年金の支払いに問題がある場合、4つそしてただ4つだけの解決策がある。
(1)平均年金月額の引下げ
(2)支給開始年齢の引上げ(年金引下げの別手法)
(3)保険料の引上げ
(4)国民総生産の増大政策

・これらのアプローチが含まれていない年金財政改善方策は、いずれも幻想である。

※(1)~(4)の番号はエントリの都合上、執筆側で付した。

この主張に基づいてざっくり整理*4すると以下のようになるのではないでしょうか。

 

(1)平均年金月額の引下げ

おもに現在の若年層・中間層が望みやすい

年金受給中の人々が嫌がる手法

(2)支給開始年齢の引上げ(年金引下げの別手法)

おもに現在の若年層および年金受給中の人々が望みやすい

年金受給開始年齢が近づく層は嫌がる

(3)保険料の引上げ

おもに年金受給中の層および年金受給予備軍が望みやすい

現在の若年層・中間層が嫌がる

 

さて、現状はというと、(1)勢力はとても弱く、(2)と(3)が随時実行中である。

しかしながら、それでも問題解決からは遠いのである。

年金受給層の政治力がいかに強いかというのが*5、お分かりいただけるだろう。

 

 と、いうわけでわれわれ若年層としては、(1)→(2)→(3)の優先順でこの問題と向き合いたいわけだが、現在の政治はそれを許さないわけだ。
実際はその真逆のアプローチとなっている。

 

しかしながら、われわれ「若年層」も当然に歳をとるわけだ。

生きてさえいれば、いずれはわれわれ若い世代も、現在の年金受給層と同様の年齢階層に来る。

 

それでは、その頃のわれわれの政治力(というか、単純な頭数)はどうなるのだろうか。

人口ピラミッドの推移予測で見ていこう。

 

まず、以下は2010年の人口ピラミッド。

 

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 出展:国立社会保障・人口問題研究所人口ピラミッドのダウンロード」(以下同様)

 

20~30代。

政治的にはどうやっても勝ち目はない。

+20年してみよう。

 

 

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2010年に20~30歳だった人々は(2030年の40~50歳)は濃い目の青で囲んだ層。

いわゆる「団塊ジュニア」は何をやっていたんだという声も聞こえそうな程に、年齢層が下の世代と共闘したところで、上の世代と真正面から立ち向かう気にはなれないのではないだろうか。

 

さらに+10年してみよう。

状況は多少変わるだろうか。

 

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 われわれはもう50~60歳だ。

このときの年金受給開始年齢は何歳なんだろうか?

 

この頃になると、次第にわれわれが年金政策(もしまだあれば)に望むことは、例えば「保険料は引き上げても受給開始年齢の引き上げはやめて欲しい」というようなことになるだろう。
順当にいけば、30年後の若い世代からみて、われわれ自身が今のネットでよく耳にする「老害」と呼ばれる存在にかなり近づいていくことになるのだ。


本題に戻して同様のことを言うならば、下の世代とこの年金問題で共闘できたとしても、頭数では上の世代とギリギリのバトルであるにもかかわらず、下の世代と政策目標が似るかといわれれば、極めて疑問だ。

 

 

このように、あくまでも予測ベースとはいえ、人口ピラミッドの推移を見る限りは、どう考えても下の世代と政策論をすり合わせるよりは、上の世代と仲良くしながらわれわれの世代としての主張をしていく方が効率的にみえる。

 

もちろん、さまざまな政策課題において学者が議論して出してくれる解はあるのだろうが、政治というプロセス自体は30年後もおそらく避けられない。

であれば、われわれ世代としての主張を提示していくことは当然に必要だが、実際にわれわれの世代が政治に浸透していくにあたっては、その他の政治勢力とどのように合意形成を目指すかという問題は避けられないものである。

 

そういう意味でいえば、上の世代のご機嫌をうかがいながら活動している同世代の政治家を見ていると、私個人としてはまるで頭が上がる気がしない。
すごいよね、彼ら。*6

 

そういう意味で、ネットの若者政策論は上の世代との協調志向が足りないよなあと思うことも多いです。

 

2020年の日本人―人口減少時代をどう生きる
松谷 明彦
日本経済新聞出版社

*1:そういえば、こういうのも書いたっけ。

*2:当エントリは別ブログで1年半前に書いたものであり、多少内容が古くなっています。

*3:「金利上昇は年金などの負債をかかえる主体にとっては損失とは断言できないと思います。いわゆる現行会計では金利上昇で負債が原価、資産が時価で評価される結果金利上昇による損失だけが顕在化してしまうため損失となります。ところが、いま欧州のソルベンシIIやIFRSなどで検討されれているように負債も時価で評価されるとなれば、金利が上昇すれば割引率が上昇する結果として負債の現在価値が小さくなる。その影響度はざっくりいえばデュレーションによって大きく左右されるので、負債のデュレーションが資産のデュレーションよりも長ければ金利上昇(まあカーブの変化の形にもよりますが)によって負債の時価の低下が資産の時価の低下を上回るので、バランスシート上は資本が厚くなる、つまり「良くなる」方向になるのです。中間論点整理にもあるように年金の負債の方が資産よりデュレーションが長いので、金利上昇は時価ベースでは年金会計を好転させることになります。」 /via  厭債害債(或は余は如何にして投機を愛したか)「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」

*4: (4)は実現するのであればみんなが喜ぶが、無理をすれば別の課題を生じさせてしまったり、問題を深刻化させてしまうリスクもある。

*5:説明するほどでもなかったとは思うが

*6:ただし、世襲を除く。