タワーマンション節税の課税強化 ある指標が密かな話題に
タワーマンションを用いた相続税対策について、新聞や経済誌で話題に上ることが増えています。
最近では「行きすぎた節税策」に対して国税当局が、いわゆる「総則6項」*1を適用するなど、課税強化に乗り出すとの報道が出たことでタイムラインが盛り上がっていました。
まず念の為、そもそもの「タワマン節税」について、以下にカンタンに引用しておきます。
マンションの相続税評価額(土地)は、敷地全体の評価額に、その部屋の持ち分割合をかけて算出する。高層マンションは部屋数が多いことから、1戸あたりの持ち分が小さくなり、評価額を低く抑える効果がある。
同じ広さなら高層階でも低層階でも評価額が変わらない。このため、より市場価格の高い高層階の物件を購入し、相続後に売却することで、現金を相続した場合などに比べ相続税を大幅に抑制できるとされる。
このような「富裕層にしか活用できない節税方法」*2は著しく公平性を害するとのことで、課税強化に乗り出すというお話しでした。
もちろん、これまでにも「明らかに節税目的のみで購入・売却したとみられる」場合などで、こうした節税手法が認められなかった事例は存在します。
(3)ポイントはどこにあったのか?
① まずは、相続開始(死亡)直前のマンション購入であり、被相続人(亡くなった人)の意思判断能力も怪しかった。
② 被相続人がこのマンションを訪れた形跡はいっさいなかった。
③ 購入金額と評価額の差が億単位で発生している。
④ 売却時期も相続開始日より1年と早い。
こうやって見て見ると、明らかに相続税を減らすためだけの行為だと言われても仕方がないところだ。
したがって、いま特に話題に上っているのは、どこからが「行きすぎた節税」とみなされるのかという論点です。
その指針がないままに課税強化と言われても、という点で当局へ批判の声が上がっています。
でも、「やりすぎなら総則6項で時価課税するぞ!」と言われても、どのマンションなら通達評価(=固定資産税評価額や路線価に基づく評価)がOKで、どのマンションだとやりすぎでNG(=実際の時価)なのかがあいまいでは、相続税を申告納税することなど、不可能です。
そんな最中、旬刊速報税理の11月21日号の、とある記事が密かな話題となっております。
では、「行き過ぎ」かどうかはどう判断されるのか。
国税庁が判断の目安となる「乖離率」をサンプル調査していたそう。
その方法は、23年分から25年分までの3年分の譲渡所得の申告書の中から、20階以上のマンションの譲渡を抽出。
その売却価格が判明した343件について、売却価格/相続税評価額により、乖離率を求めるというもの。
その結果は、最大値6.93から最小値0.57の間にちらばり、中央値2.98、平均値は3.04だった。
で、速報税理が言うには、この3.04が目安となるのではないかと。
「売却価格÷相続税評価額」で求めた値が、3以上となるものが「行き過ぎ」判定の懸念があるのでは?と、速報税理で紹介されていたとの話題です。
万一、これを信頼してよいのであれば、それなりに具体性があって有用な情報にも思えます。
しかし一方、本件に関してこうした意見もあります。
念のために、別な情報筋さんに聞いたところ、サンプルデータは、10月の記者発表の後に別途提供された資料であり、その際に、平均値を6項適用の目安とするようなコメントはなかったとのことでした。
☆ ☆ ☆
国税庁のサンプルデータは、譲渡された物件の相続税評価額との比率を出すので比較的簡単だったでしょうが、実際には、相続直前取得や直後売却した物件以外は、相続時の時価をどう判定するかの問題があるので、実務上は、国税さんも認定が難しいといえます。
それに、タワマン=20階以上の物件についてのみのデータで、評価を云々するのは、理論性に欠けます。
まさに、本件に関して個人的に思っていたことが、上のエントリでは述べられていました。
それは、20階以上の物件についてのデータを集計して平均値を出したところで、狭義の「タワマン節税」事例としての分析は一定程度行えているのかもしれませんが、広義の「行き過ぎ」*3データを捕捉したわけではないためです。
それともう1点、今回の分析結果のみを提示された状況で、『今回の平均値「3.04」は、6項適用の目安になることが予測される』と、タワマン事例だけの「売却額÷相続税評価額」(乖離率)指標の平均値を閾値として設定する根拠は乏しいのではと個人的には考えています。
記者発表資料に平均値・中央値の記載があったのでしょうけれども、その狭い世界における平均値を超えない限りは「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額」には一般的に該当しない、と判断する理由は非常に弱いのではないでしょうか。
そうはさておき、今回のこの話題で「タワマン節税」界における、「行き過ぎ」の判断材料が提供されていることは間違いがありません。
「その結果は、最大値6.93から最小値0.57の間にちらばり、中央値2.98、平均値は3.04だった。」との記述から、この世界の乖離率指標は右裾に広がりを持つ分布であることが想像つくでしょう。
この分布において「5」とか「6」なんて攻め過ぎもいいところと、この指標だけを見ると客観的に思えてくるはずです。
各自のタワマン節税が、どの程度のものかという感覚的理解には貢献してくれる、数少ない指標の1つといえるでしょう。
ただ、重ねて述べますが、この値が平均値を下回ったことが、何らかの免罪符になる保証はどこにもありません。
「節税目的のみ」での短期所有が客観的に明らかなのであれば、極端に言ってしまえばその数値に意味は無いからです。*4
課税当局に対しては、「総則6項」の一点強行突破は極力抑え、適正な通達改正などで対応して欲しいと思うわけですが、そうも行かなくなって来てる側面も大きいのでしょうね。