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中小規模事業者のマイナンバー対応 「何もしない」策が急浮上中

重要な「特定個人情報」であるとする個人番号(マイナンバー)を、雇用する従業員全員分、すべての事業者に管理させるという残念政策ですが、そのマイナンバーの通知カード自体が各人の手元に11月中に届くかどうかも微妙という情勢となっております。

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一応は今年の年末調整にかかる資料提出の際に必要とされているわけですから、多くの事業者もさすがに呆れ顔です。

 
さて、本題に入る前に確認しておきたいのですが、この従業員のマイナンバーの管理体制づくりにおいて中小規模事業者*1に求められていることは以下のようになっております。

【中小規模事業者における対応方法(抜粋)】
○ 特定個人情報等の取扱い等を明確化する。
○ 事務取扱担当者が変更となった場合、確実な引継ぎを行い、責任ある立場の者が確認する。
○ 事務取扱担当者が複数いる場合、責任者と事務取扱担当者を区分することが望ましい。
○ 特定個人情報等の取扱状況の分かる記録*2を保存する。
○ 情報漏えい等の事案の発生等に備え、従業者から責任ある立場の者に対する報告連絡体制等をあらかじめ確認しておく。
○ 責任ある立場の者が、特定個人情報等の取扱状況について、定期的に点検を行う。
○ 特定個人情報等が記録された電子媒体又は書類等を持ち出す場合、パスワードの設定、封筒に封入し鞄に入れて搬送する等、紛失・盗難等を防ぐための安全な方策を講ずる。
○ 特定個人情報等を削除・廃棄したことを、責任ある立場の者が確認する。
○ 特定個人情報等を取り扱う機器を特定し、その機器を取り扱う事務取扱担当者を限定することが望ましい。
○ 機器に標準装備されているユーザー制御機能(ユーザーアカウント制御)により、情報システムを取り扱う事務取扱担当者を限定することが望ましい。
○ 特定個人情報等を取り扱う機器を特定し、その機器を取り扱う事務取扱担当者を限定することが望ましい。
○ 機器に標準装備されているユーザー制御機能(ユーザーアカウント制御)により、情報システムを取り扱う事務取扱担当者を限定することが望ましい。

「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」の「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」より筆者集約



そりゃあこんだけのことを中小事業者に求めるなんて酷です。
しかもこれらを業務委託したとしても、

「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」
C 再委託先の監督(第11条)より一部引用

甲→乙→丙→丁と順次委託される場合、乙に対する甲の監督義務の内容には、再委託の適否だけではなく、乙が丙、丁に対して必要かつ適切な監督を行っているかどうかを監督することも含まれる。したがって、甲は乙に対する監督義務だけではなく、再委託先である丙、丁に対しても間接的に監督義務を負うこととなる。

 
委託先がさらに一部業務を委託する際には、その再委託先にも監督義務を負うことになるわけで、中小事業者であれば、こんなリスク満載の取扱いなんて関わりたくないと思う気持ちは十分すぎるほど分かります。
高いシステム料や委託手数料を払っても、その委託先等が契約書で賠償リスクの負担を相当程度、回避している例も多いみたいですしね。


そんな状況で、以下の情報が「朗報」として拡散されているようで、目に止まりました。
全商連[全国商工新聞] マイナンバー 記載なくても不利益ない 全中連に各省庁が回答



全国中小業者団体連絡会(全中連)が省庁交渉で「共通番号の記載がなくても提出書類を受け取り、不利益を与えないこと」などを要望したとのことで、それへの各省庁からの回答が以下のようであったとのことです。
一部引用いたします。

 

【内閣府】
  • 「個人番号カード」の取得は強制ではない。取得せずとも不利益はない。
  • 従業員から番号の提出を拒否された記録がなくても罰則はない。


【国税庁】

  • 確定申告書などに番号未記載でも受理し、罰則・不利益はない。番号を扱わないことで国税上の罰則や不利益はない。
  • 窓口で番号通知・本人確認ができなくても申告書は受理する。


【厚生労働省】

  • 労働保険の書類に番号の記載がなくても受理する。罰則や不利益はない。
  • 労働保険事務組合が番号を扱わないことによる罰則や不利益な扱いはない。

 
詳しくは上記記事を参照いただければと思うわけですが、本当にこういった回答であったのであれば、一部の方が書かれているように、「従業員の個人番号(マイナンバー)を事業者が一切扱わない」ことへの一種の「お墨付き」であると捉えたくなるのも頷けます。

しかしながら、現状こうした回答を得たと発表しているのが全国中小業者団体連絡会のみと限定されており、当局側のQ&Aでこうした「不利益がない」ことを保証しているわけではありませんので、これらを「お墨付き」として鵜呑みにするのは、もう少し慎重であった方が良いのではないかと思います。

 


ただ、今年に関していえば、年末調整の際などに合わせて従業員からの提出が求められている平成28年分の「扶養控除等申告書」に各従業員および各人の扶養親族らのマイナンバーを記載する必要があるとされていますが、これを無視しても確かに罰則がないことは分かっていますから*3、当エントリの結論として、「とりあえず今年末はマイナンバー対応を無視して、もうちょっと様子見してみる」ことを実行される中小事業者がいても大きな問題はないのではないかと思うわけです。

もちろん、大きな会社さんですと当局の望まない対応をされるのは、会社の規模に応じて難しいでしょうし、そもそもマイナンバー対応で収益を上げようとされている事業者さんは当然キッチリ対応されるべき事案ですが、中小事業者ですと、漏えいリスク含めて高いコストを負うよりも、「とりあえずあと9ヶ月ほど無視してみる」方がコスト的には相当に安くつくんじゃないかとも思ってしまいます。

ただし、マイナンバー通知カードが届く今年が、もっとも負担なく従業員の個人番号を確認しやすい年であることは間違いありませんので、きちんとした管理のもとに本人確認を行っておくことは基本的な動作として重要です。


以上、事業者のマイナンバー対応「とりあえず無視がベター」説について観察してみましたが、様子見的にそのように対応されることへの肯定的な論調が見受けられるようになってきました。

しかしながら、当然すべての事業者が「無視」対応をすることになれば個人番号制度の趣旨が達成されないことから、そうなることは当局としては避けたいはずです。
当ブログとしましては安易に「完全無視」対応を取ることにはもう少し慎重になっていただきたいと思うとともに、先ほどの各省庁の回答等について大手紙に取り上げていただくなどして、この説への判断材料がさらに供給されることを望み、今後の情報についても改めてご紹介して参りたいと考えております。

関連

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*1:個人番号を扱う事務委託先などを除く、事業者のうち従業員の数が100人以下のほとんどの事業者

*2:ファイルへのいわゆるアクセスログなど

*3:不利益がないかどうかは全中連記事でしか触れられていませんが。