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政府「一般論としては課税」 コインチェック返金問題で答弁を正式決定

2018.4.16 追記(タックスアンサー)

 

国税庁は、コインチェック社の補償対応方針が決まったことから、本件にて円貨で支払われる損害賠償金は、「非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象」とする政府見解を確定させました。

 

No.1524 ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係|国税庁

 

ただし、実際には雑所得にあたるのは補償金の全額ではなく、取得価額との差額の部分となることから、取得価額を下回る返還については、当該損失は「他の雑所得の金額と通算することができ」る旨も明言されております。

 

なお、本件に関する確定申告期限は来年(2019年)の3月15日です。

 

以下、本文

 

1月28日、コインチェック株式会社は約580億円分の仮想通貨NEMが流出した問題について、「不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償方針について」とするリリースを発表。


返金時期は1ヶ月が過ぎた今でも未定ではあるものの、その中で同社は、約26万人の被害者らに対して、88.549円×保有NEM数を「日本円でコインチェックウォレットに返金」する意向を(一応は)示している。

 

この件について仮想通貨トレーダーの間では、NEMでの返金でなく、日本円での返金であることを考慮すると、取得時(購入時)の価格との差額について課税所得が発生してしまうことが懸念されている。


つまり、課税されない含み益の状態が、結果的には勝手に換金されてしまったことで、値上がり分について税金が発生してしまうのではないかということだ。

 

こうした懸念について、2月16日に逢坂誠二衆議院議員は国会に「コインチェックで生じた不正送金に伴う日本円返金の課税に関する質問主意書」を提出。


「日本円による返金は、損害賠償であるとみなし、非課税にすべきではないか」との質問に対する政府の見解を質した。

 

その「非課税にすべき」根拠として逢坂議員が挙げたのは、いわゆる「ライブドア事件」において、粉飾決算で虚偽記載が公表されたことにより株価が急落し、それに損害を被った個人投資家に支払われた損害賠償金を「非課税」とした神戸地裁判決。*1


国税当局はこれを控訴せず、平成25年の末に判決は確定している。

 

今回のコインチェックによる返金が、ライブドア事件での損害賠償金と同様の扱いを受けることが出来るのか。


逢坂議員の質問に対し政府は、現状で「どのような法律関係に基づき行われるものか現時点において明らかではないことから、その課税関係についても一概にお答えすることは困難である。」としながらも、

 

なお、一般論としては、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの、又は、得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは、非課税所得にはならないと考える。

 

と回答。

 

損害賠償金であるからといっても、前述の「ライブドア事件」での損害賠償金はあくまでも「取得時差額に相当する損害を補てんする趣旨のもの」と認定されており、旧ライブドア株式を個人投資家が購入した価格が、虚偽の決算報告によって歪められており、本来あるべき価格よりも著しく高くなっていたことへの損害賠償金といえる。


損をしてしまったものが単に返ってきただけで、儲かってもいないのに税金が取られたら、それこそ泣きっ面に蜂状態である。

 

これに対し、今回のコインチェック返金は、逸失利益を流出させてしまったことへの賠償とみなされる公算が高い。

逸失利益 - Wikipedia
本来得られるべきであるにもかかわらず、債務不履行や不法行為が生じたことによって得られなくなった(得べかりし)利益。

 

つまり、まだ税金を支払っていない含み益が戻ってくる場合は、少なくともそれが日本円で戻ってくる限りは、その利益はもはや「含み益」ではなく、実現してしまっているため、一般論としては「非課税所得にはならない」という、大方の予想通りの至極当然の回答となっている。

 

(今回はおそらく逢坂議員の質問が、逸失利益への課税を免れ得るかといった、ざっくりとした質問となっていたためにこのような回答となっていると考えられますが、含み益がコインチェックへの損害賠償請求権に姿を変え、その時点で含み益が顕在化したものとするという立て付けも考えられます。この場合は、確かに「損害賠償金」自体には非課税となり得ますが、損害賠償請求権に姿を変えた時点で一旦88.549円で利確したものとして所得税が課税されることに変わりはありません。)

 

こうして損害賠償で戻ってきても、現状はしっかり課税される方針であることが改めて政府から示されたわけではあるが、3月初週現在NEMの価格は35~36円台で推移している。


このため、コインチェック社については現在、様々な身売り観測がなされており、88.549円×保有NEM数を「自己資金」で返金するとしていたリリースの内容が、この先々で減額方向に見直される可能性もある。

 

こうした場合には損害賠償金が非課税となる可能性を政府は否定しておらず、麻生財務相も会見で「預かっている金を返しただけでは(課税対象に)ならない」と述べていることから、そのような発表が国税庁から正式に出るとは思われる。

 

しかし、これもすべてコインチェックが実際に動き出すまでは、当局としてもタラレバの話は外部に対して行えず、被害者の不安だけが募っていく。


今年早々に起きた事件だけに、去年の確定申告には影響がないが、早期に動き出してもらわないと、個人投資家の今年残りのパフォーマンスにも大きな悪影響が及ぶことになる。