Not-So-News

ニュースにならないニュースを配信

「チバニアン」反対の教授が賃借権登記で対抗 したたかに進行していた作戦とは【2019/6/25更新】

2018年6月7日、茨城大などの研究グループは千葉県市原市にある地層「千葉セクション」が、歴史上重要な地層である「国際標準模式地(GSSP)」として国際的に認定されるよう、国際地質科学連合(IUGS)の専門部会に提案申請を行った。

 

これにより「チバニアン」という、日本由来の名称が付く地質年代が初めて登場するかと期待されていたが、ここに「待った」がかかった。

それも、思いもよらぬ極めてローカルな要因からである。

嵐は突然に 

以下は、「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」会長である楡井 久・茨城大学名誉教授や千葉県議会議員らが、「千葉」の名を冠した国際的な地質時代の提案について、県副知事にその後押しを要請する場面である。

 

 

また、以下は「千葉セクション」を国際標準として申請したときの産総研のリリースである。

 

謝辞


 今回のGSSP申請にあたり、日本におけるGSSP承認活動の先駆者である故・市原実 大阪市立大名誉教授および関係各位に深く敬意を表します。さらに申請書作成にあたってお世話になった、田淵町会の皆様、千葉県および市原市の関係各位、楡井久氏をはじめとする古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会の皆様、風岡修氏をはじめとする千葉県環境研究センターの方々(吉田剛氏、荻津達氏、八武崎寿史氏、亀山瞬氏、香川淳氏)に深く感謝申し上げます。

 

産総研:千葉県市原市の地層を地質時代の国際標準として申請  

 


しかし現在、上記のように「千葉セクション」の認定申請に協力してきたはずの楡井 久氏は、当時と真反対の行動を取っているようである。

要は、「チバニアン」に反対しているわけだ。

 

打たれた数々の布石

今年1月、楡井久氏は地権者の協力を得て、地層へと続く斜面にコンクリートで簡易的な階段を設置した。

「チバニアン」斜面に見学用コンクリ階段 市は困惑:朝日新聞デジタル

 

一般の見物客も増えた「千葉セクション」への経路は雨が降ると、ぬかるむこともあり、朝日新聞の取材に対して楡井久氏は、「事故があっては大変。私たちはすべてボランティアでやっている」と答えている。

しかしながら、最終的には地権者から土地を取得し、国に当地を天然記念物と認定させたい市原市としては、この思わぬ現状変更に当惑していた。

 


そして今月、思わぬ事実が次々に報道される。

「ボランティアで」階段を作ったと話したはずの楡井久氏はこの1年間密かに、かつ、着々と申請取り下げ要求への布石を打っていたのだった。

  

しかし、現在この審議は、「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」(以降、「推進協議会」とします)という団体のあるメンバーが、申請チームの研究に科学的疑義を投げかけるメール(参考資料4参照)を作業部会メンバーへ送ったことによって、一時中断されています。

「推進協議会」メンバー(申請チームでは未確認ですが、自らメンバーと称しているため、このように表記します。以下同様に表記)は、本申請の基となった研究成果には不正があるとの主張を行い、この主張を作業部会の審議で落選したイタリア研究チームの関係者を含む複数の作業部会メンバーや、より上位の委員会メンバーへ送付しました。

この主張に対し、イタリア研究チームが科学的検証なく強い賛同を示したことから審査は一旦中断され、作業部会、場合によってはIUGSにおける更に上位の委員会で「推進協議会」メンバーの主張についての真偽が裁定されることになりました。

また「推進協議会」側は、これ以前にも同様の主張を記した多数の看板等を現地に設置し、さらにその代表者が同様の主張を複数の雑誌へ寄稿(*注1)するなどしています。

 

「千葉セクション」の国際標準模式地認定へ向けた審査状況について - 千葉時代(チバニアン)の解説 

 

研究チームによると、古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会という団体が18年4月、データに捏造(ねつぞう)の疑いがあるなどという内容の電子メールを送付。イタリアなどから疑問の声があがり、審査が1カ月ほど中断している。


「チバニアン」命名審査が中断 申請チームが反論 :日本経済新聞 

 


そして、挙句の果てにはこれだ。

昨年7月、申請に反対する楡井久・茨城大名誉教授が、千葉セクションを囲む土地について、所有者から10年間の賃借権を取得、地層への立ち入りを拒める状況になった。楡井名誉教授は「申請の資料には捏造ねつぞうや改ざんがある」と主張。「不正を明らかにするために賃借権を設定した。申請の取り下げを求めていく」と話している。

 

「自由な立ち入り」困難、チバニアン申請手続き中断 : テクノロジー : 読売新聞オンライン 

 

楡井氏側が土地の所有者の許可を得て賃借権を設定することで、研究者らが地層「千葉セクション」を直接観察できるポイントまで到達することが相当難しくなっているというのだ。

自由な立ち入りが出来るというポイントは、認定申請に必要な要件でもあるのだが、楡井氏はそれを「絶対に許可しない」旨を主張しており、申請手続は賃借権による第三者への対抗で中断へと追い込まれている。(研究チームは、別ルートでの「千葉セクション」への到達ルートを探索中だという。)

 

https://i.gyazo.com/d11c9ec888476db9de0ec23da8cb767f.png

画像は市原市教育委員会ふるさと文化課作成「チバニアンチラシ(PDF)」より。楡井氏は認定申請反対のために、経路内の民有地を借り受けている

現場地図。現地に到着するには一般的に、右上の田淵会館に駐車したあと、徒歩で私有地に足を踏み入れる必要がある

 

しかもNot-So-News で調査したところ、「千葉セクション」へと続く民有地を賃借している楡井氏側は、その土地に立ち入ることを「絶対に許可しない」と主張しているだけでなく、昨年7月にはその賃借権の登記まで行っているという力の入れようである。

 

f:id:call_me_nots:20190530104037j:plain

「千葉セクション」への経路に賃借権を設定する楡井氏側

 

真の反対理由は何なのか?

ここで一つ整理しておきたいのは、楡井氏は茨城大の名誉教授という点。
楡井氏が、国際地質科学連合(IUGS)の専門部会に対して正規の手順を踏んで疑義を提示することは、学者として好ましいということだ。


しかし、研究チームによれば、昨年11月にIUGS 内での審査の中では、古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会らによって提起された疑義についても議論がなされ、研究チーム側も論拠となる資料などを提示しており、「千葉セクション」申請内容については「科学的な疑義はない」と判断されたという。

 

にもかかわらず、「千葉セクション」の認定申請に当初は賛同的であったはずの楡井氏や、楡井氏が会長を務める「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」は、

 

  • 反対派の主張を記した多数の看板等を現地に設置
  • 地権者の協力を得て経路内にコンクリート製の構造物を設置
  • 地権者の協力を得て経路内の土地に賃借権を設定登記
  • 報道陣には研究チームらの当地への立ち入りを「絶対に許可しない」と回答

 

と、科学者的な態度とは全く正反対の行動を取っている。

 

当初は協力的ともみえた楡井氏による「千葉セクション」の認定反対行動。

研究チーム側が「妨害行動」と呼ぶこれらの行動をみるに、とても科学的な態度から認定に反対しているとは思えないところである。

 

この大騒動に至る過程を調べながら、いずれ2時間サスペンスドラマ的な展開に至らないことを願わずにはいられなかった。

 

追記(2019/6/25)

千葉県市原市は24日、「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」への調査研究のための立ち入りを妨げてはならないとする罰則付き条例案を、9月までに市議会に提案すると発表しました。


条例案では、従わない場合は5万円以下の過料を科すということですが、9月に3次審査の申請期限が迫っており、どこまで実効性があるかは詳報を待つ必要がありそうです。

チバニアン 調査立ち入りの妨げ禁じる条例制定へ 市原市「研究に弊害」「市の責務果たす」 - 産経ニュース