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あれ、日本郵便って切手売ったら売上にしてんだっけ

…などと、ふと思ったので調べてみた。

 

ちなみにWikipedia で「貯蔵品」という勘定科目について調べると、以下のように記載されている。

 

販売目的ではなく、社内で使用するための切手(通信費)、印紙(租税公課)、消耗品費などは購入時にいったん費用として計上するが、期末までに使用されずに残ったものについては、当期の費用とはせず、資産に計上して次期に繰り越す必要がある。その際、戻入れするための資産科目である。

 

切手を「買っただけ」では経費とはならないよ、ということが書いてある。


本来はおそらく、買ったときに切手という貯蔵品として計上し、使用時にそれを通信費として処理するのだろうが、実務上はそんなことやってられない。
したがって、上記の記述となるのだろう。


では、同一の事象を「切手を売る側」目線(つまり日本郵便側の視点)で見るとどうなるか。
先程の文章を改変すると以下のようになる。

 

  • 日本郵便は販売用の切手などは売却時にいったん収益として計上するが、期末までに使用されずに残ったものについては、当期の収益とはせず、負債に計上して次期に繰り越す必要がある。


切手を「売っただけ」では売上とはならないよ、ということになり、「負債に計上して繰り越す必要がある」ということ自体はその通りとなる。

 

だが、冒頭の一般企業の例とは、「期末までに使用されずに残ったもの」という部分の意味合いがまるっきり異なる。

 


切手を買った側の費用認識は決算時に、【社内に在庫としてある】「期末までに使用されずに残ったもの」を費用から控除(差し引き)すればよいが、売った側の収益認識は【市中に出回っている】「期末までに使用されずに残ったもの」を収益から控除することになるからである。

 

とはいえ、期末時点で社会に出回っている未使用の切手・はがき類の額面をカウント出来るようなブロックチェーン的な世界観はいまだ実装されていない。

 

実際、2007年に民営化されて郵政公社となる以前は、切手も当期に売りさばいた金額を収益計上していたようだ。


これについて、国税はどう考えるのか知らないが、売上を過大に計上してくれる分には、むしろ万歳なんだろう。

 

 

しかし民営化され、会計基準もアップデートされる中で、切手・はがき類の販売額全額を当期の収益としてしまっては、明らかに過大計上となる。

 

日本郵便の現在の認識としては、

 

収益の認識


当社グループの郵便業務等収益のうち、切手販売収入等に関しては実現主義に基づき使用時に収益計上するため、連結決算日時点における未使用額を前受郵便料として負債計上しております。



前受郵便料については、郵便切手類販売所における郵便切手類の買受額及び在庫額等の前提条件を基に合理的な金額を算出しているため、前提条件が変更された場合、前受郵便料及び郵便業務等収益が変動する可能性があります。

 

ということで、「カウントできないから」といっても、やはり何らかの仮定をおいて見積もるしかない。

 

 

日本郵政公社設立時点では、この見積もり方法について「利用者の消費率は、販売所における切手類の消費率(仕入額に占める販売額の比率)と同等とみなして算定」しているという記載があった。

 

現在もそう推計しているのかまでは調べていないが、「切手販売所の在庫率を一般消費者の在庫率とする」というのは、官僚が考えたのだろうか苦肉の策のようで、意外とそんなもんなのかもしれない。

 

2019年度でみれば、年間の郵便業務等収益に対し、「前受郵便料」の計上額はおよそ2%程度であった。うーん、そんなもんなのかもしれない。

切手収集家が所有しているものは、もう「売った」とみなしていいんだろうしね。

 


そういえば日本銀行が発行している日本銀行券(紙幣)は、発行時に負債として計上されているが、「大津波などで海に消えてしまった紙幣が相当額ある」という話を聞くことがある。

 

これも見積もりが可能であれば、その分だけ日銀は負債から解放されるため「銀行券退蔵益」のような収益計上が可能となることも考えられる。

 

 

そういえば昨年、思わぬところで日本銀行の「発券センター」に勤めている方とお話し出来る機会があって、いろいろ話してくれて楽しかったのだが、「日本銀行券のナンバリング管理(紙幣が市中でどのような流通をしているかを実測するために、それぞれの紙幣の流通経路を番号などで記録すること)も検討課題として行内の議論はある」と教えてくれた。

 

デジタル人民元に追われ、デジタル円の実現についても自民のプロジェクトチームの夢物語に付き合わされている日銀であろうが、貨幣の流通速度を実測するというのは、たしかに21世紀のマクロ経済学のようなものを感じられる気もしなくはない。


もっとも、これで何らかの技術的進歩で、実際に紙幣の退蔵益の見積もりが可能となっても、利益が増えて国庫に納付する分が大幅に増えたら泣けてしまうので、当事者としては見積もる気は起きないとは思う。

 

ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元

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