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現物出資財産の評価額を水増しさせると、当事者らはどうなるのか:ジュリストウォッチ

突然だが、皆さんは「かんぽの宿」と聞くと、何を思い浮かべるだろうか。
普通の人ならズバリそのものを、また一部の人は某社へのバルクセールが社会問題化していたこと、また一部の●株クラスタは「監理ポスト」を思い浮かべるかもしれない。

しかし、そんな●株クラスタは同時に、ゲーム販売会社「ネステージ」のことも脳裏に浮かぶだろう。

 

不動産の現物出資をめぐっては2011年、ゲーム販売会社「ネステージ」(同府吹田市)=ジャスダック上場廃止=についても同様の事件が摘発された。壁に穴が開いたままの建物など、廃虚同然の物件も含まれていた旧「かんぽの宿」などを舞台にした事件だ。

この事件では、不当に高く鑑定された旧「かんぽの宿」の宿泊施設などの現物出資で不正な増資を行ったとして、旧経営陣らが金融商品取引法違反(偽計)容疑で逮捕された。こちらも、債務超過による上場廃止を避けることが目的だったとみられている。

セイクレスト - Yourpedia

 
2015年12月号のジュリストでは、この当時に債務超過状態であった、上場会社セイクレストがのめり込んでしまった、上記に引用したネステージの件と同様のスキームにより行われた「現物出資」制度悪用事例のその後について、弥永真生氏が取り上げている。*1

 

セイクレスト(A)は、平成23年5月2日、大阪地方裁判所において破産手続開始決定を受け、原告Xが破産管財人に選任されている。

Aは同年、合同会社Y1を割当先として、募集株式の第三者割当発行(総額21.2億円)を行うこと、このうち20億円については、Aに対する現物出資(白浜の山林)によることを株主総会で決議した。

本件現物出資にあたっては、不動産鑑定士Dが本件山林の評価額を31億4750万円、Aが依頼したE不動産鑑定士はD鑑定に関連して7億8800万円~21億円とする意見書を作成した。

そこで、F弁護士は、Aに対し、本件現物出資に関して、本件山林の価額を20億円とすることが相当とする旨の会社法207条9項4号に基づく証明行為を行った。

ところが、この山林の価値は当時、5億円を上回らなかったという。
そのためXはY1に対し、会社法212条1項2号に基づき、現物出資財産の価額不足額の一部等の支払を求めて訴えを提起したというのが今回の主要論点である。

地裁判決はこれについてXの主張を一部認容し、「XはY1に対し、20億円と5億円の差額である15億円のうちの4億円」及びこれに対する商事法定利率による利息の支払を求めることができるとした。
これは、募集株式の引受人について現物出資の目的財産価額不足額支払義務を認めた初めての公刊裁判例とのことである。

また、これに関連して、XはF弁護士との間で、当該証明行為に基づくFの責任額を3.48億円とする裁判上の和解が成立しているという点も注目に値する。

特にこの点については、XがFに代位して、Fとの間で弁護士賠償責任保険契約を結んでいた保険会社Y2に対し、保険金等の支払を求めて訴えを提起している事件にも非常に興味がそそられるものである。(この件に関しては、Fは裁判所により、「本件証明行為をするについて注意を怠らなかったとはいえない」として、損害賠償責任が認められている点も初の公刊裁判例となっている。)


本件に関してはこれで終わり(とはいえ、控訴されていることに留意)だが、この会社の事例は他にも、特に上場会社の役員にも大きな衝撃を与えている。

金融・商事判例の最新号に、大手法律事務所の先生の判例評論が掲載されておりますが、平成25年12月26日、大阪地裁において、セイクレスト社の元監査役(非常勤・社外)の会社に対する損害賠償責任が認められました(←正確には、役員責任査定決定に対する異議の訴え事件です。判決全文は、金融・商事判例1435号42頁以下)。当ブログでも1年半ほど前に本事件を取り上げ、監査役さんにかなり厳しい意見を書かせていただきましたが、公認会計士である元非常勤社外監査役の方が、任務懈怠により、会社(破産管財人)に対して600万円以上(報酬2年分相当)の損害賠償責任が認められ、個人財産の保全処分まで受けているようです(ただし現在控訴審係属中)。

判決文からすると、この監査役さん(平成13年に監査役就任)は、善管注意義務違反の不正行為を繰り返す社長さんに対して、問題を指摘しておられたようで、善処しない場合には辞任する旨も述べています。

ビジネス法務の部屋: 社長を脅せば監査役の善管注意義務は尽くせるか-セイクレスト・社外監査役責任追及訴訟判決

 

――セイクレストにおける不正な増資事件では、監査役に厳しい判決が言い渡されました。

 眞田監査役:厳しいですね。監査役は取締役会で何度も発言しています。通常の監査役のレベルから言えばよくやっています。
 
 しかし、裁判所は、要するに監査役監査基準にある「勧告」まではしていないということを指摘しています。監査役の言うことに経営者が耳を貸さない場合、一歩進んだ行動を起こさないといけないということなのでしょう。監査役監査基準にも書かれているからもっと有効に使いなさいよということです。
 
 このような厳しい判決もあり得るのかなとも思います。でも、ここで社長が解任されれば、銀行借り入れもできなくなる状態でした。そのような状況下での監査役の立場を考えると、気の毒だなと思います。

judiciary.asahi.com

 
こうしてみると、昨今話題のコーポレート・ガバナンスにも絡んだセイクレスト社の事例だが、今回ジュリストで取り上げられていた現物出資の目的財産価額不足額支払義務と、証明行為を行った弁護士の損害賠償責任という論点とともに、個人的には後者に関係して損害保険会社へ代位した請求についても興味を持っているところである。

関連

BOOK

ジュリスト 2015年 12 月号 [雑誌]

*1:2頁:現物出資と価額不足額支払義務・証明者の責任――大阪地判平成27・2・13