「今、アメリカ経済は好調です。車が飛ぶように売れていきます。理由は低所得者向けの低金利ローンです。」について
NHKニュース見てたけど 「今、アメリカ経済は好調です。車が飛ぶように売れていきます。理由は低所得者向けの低金利ローンです。」 なんか数年前同じようなニュースがあった気がするんですが #NHK
— はやぶさ (@24e5hayabusa) July 22, 2014
2日で約3,000RTされたこのツイート。
それだけあの金融危機という名の惨劇は、あるいは、単に「サブプライム」という単語は、我々の頭にまだまだこびり付いて離れないということなのだろう。
今回はこのツイートをもとに、この「新たなサブプライム」の現状を少しだけ見てみよう。
「誰でも借りられます」 低所得者層も利用する中古車店ではそのような看板も目立つという。
(Photo: NYTimes.com/dealbook)
本件について先日DEALBOOKが取り上げている記事がちょうどあったので今日はそれをカンタンに紹介していくことにしよう。
In a Subprime Bubble for Used Cars, Borrowers Pay Sky-High Rates - NYTimes.com
以下の画像は上の記事から引用したアメリカの自動車ローン(新規)の額の推移。
一見すれば分かるように、なるほど「サブプライム(一般に信用度の低い個人*1)」向けの貸出の割合がリーマン・ショック以降で戻ってきていることがうかがえる。
以前の記事「米国でリスクが高めのレバレッジド・ローンが増えているもよう - Not-So-News」ではレバレッジド・ローンにおける「コベナンツの質が下がっている」現状が触れられているが、先ほどのDEALBOOKの記事における低所得者向け自動車ローンの現状でも、実際の事例や借り手への取材を通じて、貸し手の貸出条件のゆるさにスポットを当てている。
たとえばこんな具合だ。
- Rodney Durham(60歳)は1991年に破産を宣言して仕事を辞め、以後は生活保護のおかげで暮らしている。にもかかわらず、ウェルス・ファーゴは彼に三菱製のセダンを買うための資金150万円を貸し出した。
- Durhamが提出した借入申込書の写しによれば、彼はルーデス病院で働き、年収は350万円と申告している。そのことを尋ねると、彼は中古車販売店に、もうだいぶそこでは働いていない事実を告げているのだという。つまり、ウソの申告で審査に通り、彼はお金を借りられたわけだ。
- 結局、当然のように彼は返済を数ヶ月滞納した結果、車はウェルス・ファーゴのものとなってしまった。しかしながら、Durhamのような借り手の中には、銀行が回収した自動車を売却した後も債務の返済を続けさせられて苦しんでいる人々も少なからずいる。*2
- NYTが調査したところ、こうした低所得者向けローンの金利は年利23%を超えるものもあり、多くの例では購入する車両の少なくとも2倍以上の金額を貸し出している。(そもそも、購入車両にほとんど値が付かないのに貸し出した例もある。)
- こうしたローンの貸し手(金融機関)は、よりリスクの高い借り手(低所得者層など)を求めて、貸出条件をゆるめてきている。この流れは記憶に新しいサブプライム危機における過程と非常に似通っているもので、低所得者向け自動車ローンへの投資は、高めでしっかりとしたリターンを求める投資家を魅了し、その多くは銀行によって束ねられて証券化され、機関投資家向けにも販売されている。
ここまで読んでくると、もうあの悪夢が脳裏をよぎってくるのも無理はない。
私はあのとき若いなりに(大げさではなく)資本主義の終焉を予感したし、周囲でもそれほどの衝撃を受けた人は少なくないようである。
それほどのショックなのだから、そのとき散々聞いた話を上でもう1度聞かされている気になってしまう人だって少なくないはずだ。
しかし、あれほどの惨劇を味わいながらもなお、DEALBOOK記事が本文中で「あの金融危機からたった6年で、ウォール・ストリートは性懲りもなく、非常にハイリスクな投資に手を染めている」と指摘しているのが、ある意味で米国経済の現状ともいえる。
ただ、「ある意味で」という文言をわざわざ挿入したのは、この件をそこまで煽ってしまうのもおかしいということも事実だからである。
これがあのときほどのシステミック・リスク*3に及ぶかと問われれば、そこまではまだまだ言えないだろう。
一方で自動車ローンとか学生ローンとかカードローンとかを合計しても残高は住宅ローンの3分の1に過ぎない。その住宅ローンはようやく昨年底打ちしたがまだピーク時には遠く及ばない。全体としてアメリカの貸出はバブルどころかまだ弱い。 pic.twitter.com/amacefEofY
— ののわけーざぃ (@nonowa_keizai) July 23, 2014
ののわさんが紹介する上図のように、住宅ローンの全体の大きさ(青)に比べれば、住宅以外のローンの市場規模(赤)などまだまだ限られているし、それは前述のDEALBOOK記事も指摘するところである。
前回はあのサブプライム関連の金融商品にAAAの格付けを与えたS&Pも、今回はさすがに投資家向けに警告を発しているようだ。
我々は金融危機から何を学んだのか。
それは今なお、各方面で問われ続けている。