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「ふるさと納税」メリットが2倍に拡充か でも、地方団体から受け取る謝礼は本当に金森さんが言うほど「ノーリスク」?

「実質的負担をほとんどせずに自治体から贈り物がもらえる」と評判のいわゆる「ふるさと納税」が、安倍政権が統一地方選を睨んで掲げる「地方創生」政策の恩恵を受けて、税金が軽減される寄付の上限額を現在の2倍に引き上げる方針が挙がっているという。

注:以下にこの記事の追記を行っています。(2014/12/17)


ふるさと納税、控除上限を2倍に拡充 自民圧勝で大綱に盛り込まれる公算拡大 - Not-So-News

 

 政府は、出身地などの地方自治体に寄付すると居住地での税金が軽減される「ふるさと納税」制度を、2015年度から拡充する検討に入った。税金が軽減される寄付の上限額を現在の2倍に引き上げ、手続きも簡素化して、年末に決定する15年度税制改正に盛り込む方針。地方への寄付を活発化させる効果を狙っており、来春の統一地方選をにらんで「地方重視」を掲げる安倍晋三政権の目玉政策にしたい考えだ。

 ふるさと納税は、故郷や応援したい都道府県・市町村を選び寄付する制度。寄付額のうち自己負担を2000円と定め、それを超える分を、寄付した人の税金(居住地の自治体に払う個人住民税と国に払う所得税)から差し引く。居住地の自治体や国に税金を払う代わりに好きな自治体に寄付すればいい仕組みだ。

ふるさと納税:税金軽減上限2倍に 15年度から拡充検討 - 毎日新聞

 

「ふるさと納税」制度を利用・確定申告をされた方はご存知のように、寄付すれば2,000円を超える部分は何でもかんでも所得税額の減額に使えるというわけではなく、引くことのできる金額には所得やその他の所得控除などに応じた上限がある。

 

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控除限度額のシミュレーションができるExcelのダウンロードはこちら。ただし、上の画像も含め、あくまでも目安に過ぎないことに注意する必要がある。)


しかし、冒頭のニュースによればこの「上限額」を、現在の2倍に引き上げるべく調整中なのだという。
これはまさに大チャンスである。――特にこの方にとっては。

近年、「株主優待の桐谷さん」に続いてマネー誌界を賑わせているカレ、金森さん。
ダイヤモンド ZAi (ザイ) 2014年 09月号ではその2人が「食費ゼロに挑む男2人の熱いバトル! どっちがオトク!?桐谷・株主優待 VS 金森・ふるさと納税 ガチンコ8番勝負!」で取り上げられている。

そこで取り上げられている金森さんのふるさと納税術だが、企画が「食費ゼロに挑む」と銘打っているとあって、そのスタイルは凄まじいものとなっている。

 一方の金森重樹さんは東大卒の不動産関連企業の経営者。今年は1年間に200件、300万円超のふるさと納税を実行する予定だ。少なく見積もっても年間100万円分以上の食品が手元に届くことになる。金森家は奥さんと小さいお子さん2人の4人家族。これだけあれば、家族4人の食費には十分だ。

「桐谷・株主優待VS金森・ふるさと納税」バトル、食費0円を目指すオトク度対決「肉編」を大公開!|ダイヤモンドZAi最新記事|ザイ・オンライン

いやはや、今回の「ふるさと納税」拡充策ではその面倒くさい手続きの簡素化も図るとのことだが、現状では「1年間に200件」なんて煩雑極まりないものである。
よくぞここまで、と言わざるをえない(件数や額はあくまで自己申告ではあるが)。

これで控除上限額が2倍に、さらに事務手続きも簡素化されるということになれば、彼も自身の受け取る贈答品が増えるのみならず、メディアへの登場回数も増えて2倍ウハウハになることが容易に想像がつくはずだ。


また、同特集中で金森さん*1はこの「ふるさと納税」による特産品の受領を「ノーリスク」のメリットであると強調していた。
だがしかし、本当に納税先*2を変えるだけで謝礼を受領するにあたって、実質負担は2,000円で済むのだろうか。

となれば、所得が多い人は多額の寄付を地方公共団体にすることで、実質的には税額負担を減らすことが出来てしまう。
その顕著な例が、金森さんも同特集で取り上げている、「Yahoo!公金支払い」を活用して千葉県市川市へ寄付する事例である。

 

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詳細:市川市|市川応援サイト「市川市を応援してください」

 

なにこれハンパない。
確かに「予定ポイント数に達し次第、ポイントの進呈は終了となります」との記述はあるものの、『インターネットを利用し、1回に1万円以上の寄付をされた方には、「Tポイント」を2,000ポイント進呈します。』と、個人の上限額は設定されずに、ある意味で「所得税のTポイント還元」特典が謳われている。

 

「ふるさと納税」制度の創設にあたって議論が行われた「ふるさと納税研究会」の報告書においては、こうした「ふるさと寄附金」に対する過度の謝礼への懸念については「各地方団体の良識によって自制されるべきものであり、懸念があるからといって直ちに法令上の規制の設定が必要ということにはならないと考えられる。各地方団体の良識ある行動を強く期待するものである。」との記述があり、毎日新聞による冒頭とは別の記事でも、こうした特典に対して『「制度見直しにあわせて何らかの制限措置を検討すべきだ」(自民党税制調査会幹部)』と書かれている。

また、金森さんも上のZAIの特集でこのような制度は続いて欲しいが、長続きはしにくいというような主旨の発言をされている。

しかし、もちろん個人にとっては現状お咎め無しである以上、この「Tポイント還元」を利用するのは自由である。


さて、こうした状況で、金森さんが受け取る「少なく見積もっても年間100万円分以上の食品」は本当にノーリスクなのだろうか。
それには、国税庁は以下のような回答を行っている。

ふるさと寄附金の謝礼として受ける特産品に係る経済的利益については、所得税法第9条に規定する非課税所得のいずれにも該当せず、また、地方公共団体は法人とされていますので(地方自治法第2条第1項)、法人からの贈与により取得するものと考えられます。
 したがって、特産品に係る経済的利益は一時所得に該当します(所得税法第34条、所得税基本通達34-1(5))。

「ふるさと寄附金」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係|所得税目次一覧|国税庁

つまり、受け取った謝礼(経済的利益)は一時所得として課税対象となるのだ。

 


(注)
1 その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限られます。
2 AからBを控除した残額が50万円に満たない場合には、その残額となります。
(画像は上の国税庁ページより)

 

ちなみに、上の注釈にある「その収入を生じた行為をするため直接要した金額」には当然ながら地方公共団体に支払った寄附金は当てはまらない。
あくまでも「寄附」を行ったのであるから、一時所得に該当する収入に対する経費性はないと判断されるのだ。*3


さらに一応触れておくと、先ほどの桐谷vs金森特集で株主優待にはそういうリスクは全くないのかといえば、もちろんそういうことはなく、個人が受け取る(優待を贈る法人側が利益処分として経理していない)株主優待の受領分は「雑所得」とみなされて課税対象となる。

もちろん、こちらも低額の場合は申告不要につき非課税ではあるが、株主優待で「食費ゼロ」を目指しちゃうような人々にはそうなるはずもない。


こうしたふるさと寄附金にかかる謝礼や株主優待といった経済的利益の受領にあたっては、確かに、じゃあ飛騨牛600gはいくらであるかといったような評価の難点はあるものの、残念ながらたくさん受け取っておいて「ノーリスク」とはいえない。

目立って受け取っていると、受け取ったギフトへ部分的に課税されるリスクや、過少申告加算税などを課されてしまうリスクは、「無」とはいえないことになるだろう。
(個別および具体的な税務に関するご質問は、税理士にご相談ください。)

*1:ひょっとしたら編集部が書いたかもしれないが

*2:正確には寄附行為

*3:法人が地方公共団体に寄附をした場合の寄附金額は、税額ではなく課税所得を減額する効果を有するに限られる。