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日本社会での「結婚の条件」:キスするくらいの恋愛経験がちょうどいい 成蹊大学院論文

成蹊大学大学院文学研究科から、「恋愛経験は結婚の前提条件か : 2015年家族形成とキャリア形成についての全国調査による量的分析」という題の論文が、「成蹊人文研究 第 24 号(2016)」に掲載されている。

SEIKEI University Repository: 恋愛経験は結婚の前提条件か : 2015年家族形成とキャリア形成についての全国調査による量的分析



成蹊大学では「家族形成格差研究プロジェクト」と題し、日本に暮らす成人男女を対象とした社会調査および家族形成に関するデータ収集を毎年行っており、昨年度の「2015年家族形成とキャリア形成についての全国調査」においては、「全国の20~69歳の個人1万2007人から、初婚までの恋人人数、デート人数、キス人数、性関係人数」についてのデータを収集*1

 

前述の論文ではこのデータを用いて、結婚経験の有無を従属変数とし、ロジスティック回帰分析を行うことで、「結婚まえの恋愛経験が、結婚のための前提条件であるのか」について検討をしたという。

論文によれば、これまでこのような規模で恋愛経験が量的に測定されることはなかったといい、今回の検討の結果、「結婚まえの恋愛経験のうちとくに恋人とキスが、結婚のための前提条件とはいえないまでも、促進要因となっていることがわかった」としている。

 

この他、論文中には結論部での「結婚のためには、デートだけでは恋愛経験の蓄積には不十分で、性関係では過剰なのかもしれない」という推測など、興味深い点が存在する。

出生動向基本調査によれば、日本社会の結婚は、戦後まで見合い結婚が中心だった。これが1960年代に恋愛結婚に逆転され、2010年では9割近くの結婚が恋愛結婚となっている(同論文より)


見合い結婚中心時代が終わりを告げ、恋愛結婚化が進展しながらも、日本における婚外子の比率は2008年で2.1%と低い状況。
こうした状況を論文では「(日本社会における)家族形成のためのメイン・ルートは、まず恋愛し、つぎに結婚し、そのつぎに出産することとなっているようである」と指摘。
「恋愛と結婚と性関係が結びついていなければならない」という「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」(ノッター 2007)が、(日本社会の)規範意識として存在しているようだと述べている。

 

そして、このような背景が日本人の家族形成ルートにおいて、「出産の壁」、「結婚の壁」の前に「恋愛の壁」を存在させているのではないか――論文では「恋愛結婚化が進むなか、結婚まえの恋愛経験は、結婚のための前提条件となっているのか」検討を進めた。

 

※論文における仮定

ここでは、Becker(1964)や小林他(2015)とおなじように合理的選択理論を用い、「人びとは恋愛経験によって、対人魅力やコミュニケーション能力を人的資本として蓄積し、それを有効活用することで結婚として回収する」と仮定する(図3)。

 

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ロジスティック回帰による検討の結果、同論文では「男女ともに同じ規定要因をもち、恋人経験があるほど、またキス経験があるほど、有意に結婚のチャンスが高まった。オッズ比より、男女とも恋人が1人でもいれば結婚が約3倍しやすくなり、キス経験が1人とでもあれば約2倍となった。いっぽう、デート経験と性関係経験は効果をもたなかった」と報告。

そのような結果を導き出した背景については、『結婚のためには、デートだけでは恋愛経験の蓄積には不十分で、性関係では過剰なのかもしれない。それよりも、「キスだけをするような恋人」こそが適度であって、結婚のための対人魅力やコミュニケーション能力を蓄積できるのだろう。』と推測している。
(ただし、恋愛経験が多ければ多いほど結婚実績が高まっているという結果にはなっていないようで、一定のピークが存在する可能性を示唆している。)

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なお、各統計量等については論文を参照のこと。

冒頭にて紹介した成蹊大学「家族形成格差研究プロジェクト」においては、2016年度中に『データで読む現代社会:恋愛と結婚』という一般書を刊行予定としているので、今回のような考察に興味がある方は、注目しておいてもよいかもしれない。

BOOK

amzn.to

*1:ただし、マクロミル社のウェブ調査による