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2030年、国内バックオフィス人員は140万人消える 経産省部会が試算

先日、野村総研が発表した「日本の労働人口の約49%が、技術的には人工知能等で代替可能に」というリリースが話題となりました。

(記事は以下の100項目の後に続きます)

人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業(50音順、並びは代替可能性確率とは無関係)

※職業名は、労働政策研究・研修機構「職務構造に関する研究」に対応

  • IC生産オペレーター
  • 一般事務員
  • 鋳物工
  • 医療事務員
  • 受付係
  • AV・通信機器組立・修理工
  • 駅務員
  • NC研削盤工
  • NC旋盤工
  • 会計監査係員
  • 加工紙製造工
  • 貸付係事務員
  • 学校事務員
  • カメラ組立工
  • 機械木工
  • 寄宿舎・寮・マンション管理人
  • CADオペレーター
  • 給食調理人
  • 教育・研修事務員
  • 行政事務員(国)
  • 行政事務員(県市町村)
  • 銀行窓口係
  • 金属加工・金属製品検査工
  • 金属研磨工
  • 金属材料製造検査工
  • 金属熱処理工
  • 金属プレス工
  • クリーニング取次店員
  • 計器組立工
  • 警備員
  • 経理事務員
  • 検収・検品係員
  • 検針員
  • 建設作業員
  • ゴム製品成形工(タイヤ成形を除く)
  • こん包工
  • サッシ工
  • 産業廃棄物収集運搬作業員
  • 紙器製造工
  • 自動車組立工
  • 自動車塗装工
  • 出荷・発送係員
  • じんかい収集作業員
  • 人事係事務員
  • 新聞配達員
  • 診療情報管理士
  • 水産ねり製品製造工
  • スーパー店員
  • 生産現場事務員
  • 製パン工
  • 製粉工
  • 製本作業員
  • 清涼飲料ルートセールス員
  • 石油精製オペレーター
  • セメント生産オペレーター
  • 繊維製品検査工
  • 倉庫作業員
  • 惣菜製造工
  • 測量士
  • 宝くじ販売人
  • タクシー運転者
  • 宅配便配達員
  • 鍛造工
  • 駐車場管理人
  • 通関士
  • 通信販売受付事務員
  • 積卸作業員
  • データ入力係
  • 電気通信技術者
  • 電算写植オペレーター
  • 電子計算機保守員(IT保守員)
  • 電子部品製造工
  • 電車運転士
  • 道路パトロール隊員
  • 日用品修理ショップ店員
  • バイク便配達員
  • 発電員
  • 非破壊検査員
  • ビル施設管理技術者
  • ビル清掃員
  • 物品購買事務員
  • プラスチック製品成形工
  • プロセス製版オペレーター
  • ボイラーオペレーター
  • 貿易事務員
  • 包装作業員
  • 保管・管理係員
  • 保険事務員
  • ホテル客室係
  • マシニングセンター・オペレーター
  • ミシン縫製工
  • めっき工
  • めん類製造工
  • 郵便外務員
  • 郵便事務員
  • 有料道路料金収受員
  • レジ係
  • 列車清掃員
  • レンタカー営業所員
  • 路線バス運転者

www.nri.com

 

こうした研究をベースに行った、各職業ごとの今後15年間における従業者数変化の試算を、経済産業省の産業構造審議会・新産業構造部会が先月27日、「新産業構造ビジョン中間整理」という資料の中で公表しました。

 

www.meti.go.jp

 
かねてより、同部会では、『第4次産業革命*1へ的確に対応するための官民の羅針盤となる「新産業構造ビジョン」の策定』を目指して審議を重ねていますが、同部会ではその「中間整理」を公表するにあたって、野村総研等が提供するデータを使用して、今後2030年までの産業構造・就業構造の試算も行っています。

新産業構造部会では、その試算において、このまま特に国家的な行動を起こさない場合の「現状放置シナリオ」と、”第4次産業革命”による生産性の飛躍的な向上、成長産業への経済資源の円滑な移動、ビジネスプロセスの変化に対応した職業への人材の移動などが実現した場合の「変革シナリオ」に分けて、それぞれにおいて「どのような産業活動部門及び職業が拡大・縮小する可能性を有しているのかについて、経済モデルを構築」し、分析を試みています。


その分析によりますと、2015年に全体で6334万人いる従業者数が、2030年には「現状放置シナリオ」では735万人減ることになり、「変革シナリオ」ではそれが、161万人の減少に抑えられると試算されています。

なお、それぞれのシナリオについては、以下のような説明が付されています。

 

現状放置シナリオ

  • 我が国産業が海外のプラットフォーマーの下請けに陥ることにより、付加価値が海外に流出。
  • 社会課題を解決する新たなサービス付加価値を生み出せず、国内産業が低付加価値・低成長部門化。
  • 機械・ソフトウェアと競争する、低付加価値・低成長の職業へ労働力が集中し、低賃金の人が多い社会。


変革シナリオ

  • 社会課題を解決する新たなサービスを提供し、グローバルに高付加価値・高成長部門を獲得。
  • 技術革新を活かしたサービスの発展による生産性の向上と労働参加率の増加により労働力人口減少を克服。
  • 機械・ソフトウェアと共存し、人にしかできない職業に労働力が移動する中で、人々が広く高所得を享受する社会。

 


さて、それでは部会資料(中間整理)では、各職業ごとの従業者数変化をどのように予測しているのでしょうか。
もう少しミクロに分析された推定結果が下の表です。

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 以下、1つずつ見ていきましょう。

 

①上流工程:経営戦略策定担当、研究開発者等


経営・商品企画、マーケティング、R&D等、新たなビジネスを担う中核人材が増加。
就業者数:(放置)-136万人  (変革)+96万人

人口減少時代にあって、ビジネスの中核人材が100万人近く増えるというのは容易には想像できませんが、現場の人材が減って本部の人員に流れる社会を「変革シナリオ」ではお考えになっているそうです。
日本のビジネスにおける機械・自動化とグローバル化をさらに加速させると、世界的にみた日本経済の「本部化」が進む、そういったイメージなのでしょうか。

 

②製造・調達:製造ラインの工員、企業の調達管理部門 等

AIやロボットによる代替が進み、変革の成否を問わず減少
就業者数:現状放置-262万人 変革-297万人

今回の試算におけるトップ・オブ・「いずれにせよ居なくなる業種」。全体数が大きいだけに、時代の変化による影響が甚大であると予測されています。
割と「AIやロボットによる代替」が想像されやすい部門では、変革を行う/行わないにかかわらず、大きな減少を見込んでいるようです。

 

③営業販売(低代替確率):カスタマイズされた高額な保険商品の営業担当 等

高度なコンサルティング機能が競争力の源泉となる商品・サービス等の営業販売に係る仕事が増加。
就業者数:現状放置-62万人 変革+114万人


変革シナリオでは、次の④営業販売(高代替確率)に挙げられるような、部会が低付加価値だと考えている職業層が移行してくるというのも見据えているでしょうが、高付加価値の営業販売さんが100万人超も増加するシナリオというのも個人的には想像がつきません。
高度なコミュニケーション能力を有し、しかも、BIツールなどの劇的な進化に対応できるような人員の吸収先となるということなのでしょうか。

実際に、こうした移行を働きかけている事例としては、日立製作所さんが参考になるかもしれません。

www.nikkei.com

 

④営業販売(高代替確率):低額・定型の保険商品の販売員、スーパーのレジ係 等

AI、ビッグデータによる効率化・自動化が進み、変革の成否を問わず減少
就業者数:現状放置-62万人  変革-68万人


実際に米マクドナルドでは、レジの無人化を試験しているなど、変化を先取りしやすい領域かもしれませんね。
15年後の就業者数はシナリオによらず減少するというのも頷けるのかも。

⑤サービス(低代替確率):高級レストランの接客係、きめ細やかな介護 等

人が直接対応することが質・価値の向上につながる高付加価値なサービスに係る仕事が増加。
就業者数:現状放置-6万人  変革+179万人


変革シナリオではおそらく、「きめ細やかな介護」需要を見込んで予測を立てているのでしょう。
この資料では、「人工知能により認識・制御機能を向上させた医療・介護ロボット等の最新技術の実装が進み、現場
の負担を軽減。さらに、生体情報解析システムを構築・利用することで、各患者に合った、副作用が少なく、薬効の高い医薬品のデザインや疾患の早期発見が可能に」というようなビジョンを描いており、現状は離職の多い介護従事者の負担が軽減されることにより実現される、他の産業からの労働力の移転を見込んでいると思われます。

⑥サービス(高代替確率):大衆飲食店の店員、コールセンター 等

AI・ロボットによる効率化・自動化が進み、減少。※現状放置シナリオでは雇用の受け皿になり、微増
就業者数:現状放置+23万人  変革-51万人

 

すでに居酒屋・レストラン等ではタブレット注文に置き換わっておりますが、調理もロボット化されるとの見立てでしょうか。
自然言語処理における機械学習など、さらなる技術進歩によるコールセンターの効率化がどこまで可能になるのか分かりませんが、「現状放置シナリオ」下では逆に、業務の自動化で追い出される他産業従事者の雇用の受け皿になるとの予想がされている点が、このセクターの注目点です。

⑦IT業務:製造業におけるIoTビジネスの開発者、ITセキュリティ担当者 等

製造業のIoT化やセキュリティ強化など、産業全般でIT業務への需要が高まり、従事者が増加。
就業者数:現状放置-3万人  変革+45万人


分析では、IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能等の技術革新の影響をもっとも受けにくい業種とされているようです。
とはいえ、「IT業務」内で求められる素養そのものが、大きな変化にさらされやすいかもしれませんね。

⑧バックオフィス:経理、給与管理等の人事部門、データ入力係 等

AIやグローバルアウトソースによる代替が進み、変革の成否を問わず減少
就業者数:現状放置-145万人  変革-143万人


「いずれにせよ居なくなる業種」2番手がバックオフィスです。
現状でも、管理・会計業務の自動化は、いわゆるフィンテック領域の進展などが見込まれています。
「消えゆく仕事」の中で各自どうポジションを取っていくか、悩む人も少なくありません。

⑨その他:建設作業員 等

AI・ロボットによる効率化・自動化が進み、減少。
就業者数:現状放置-82万人  変革-37万人

 

震災・オリンピックで需要が逼迫した領域ですが、「自動化すると就業者の減少幅が抑えられる」ロジックは、ちょっと腹落ちさせるのが難しいです。


以上、経産省「新産業構造ビジョン」(中間整理)における職業別の従業者数の変化を見てきました。
今回の試算においては、その前提となる労働力人口の2015~2030年の変化について、労働力人口の減少を抑える政策が採られない場合には15年間で-787万人、経済・雇用政策を講じ、経済成長とともに労働市場への参加が進む場合は-225万人とした労働政策研究・研修機構(JILPT)の推定を用いています。

したがって、一部報道では、「AIやビッグデータなどの技術を活用して国内産業を改革しなければ、2030年度までに就業人口が735万人減るとの試算」などと紹介されていますが、そもそものJILPTのシナリオに大きく依存していると考えられることから、『AI活用しなければ…「就業人口735万人減」』などという見出しは不適当かなあと個人的には思います。

ご参考

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 ※同資料より

*1:IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)等の技術革新を的確に捉え、これをリードするべく大胆に経済社会システムを変革すること